大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成元年(ワ)6306号 判決

原告

大瀬康介

右訴訟代理人弁護士

藤井英男

藤井一男

被告

堀雄登

右訴訟代理人弁護士

古閑孝

主文

一  被告は原告に対し、金七六一万九六九〇円及びこれに対する昭和六三年七月三一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金二三六九万一六〇七円及びこれに対する昭和六三年七月三一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  (当事者)

被告は、自己を許可申請者とし、茨城県北相馬郡守谷町大柏中耕地一七五三番地の土地(以下「本件滑空場」という。)を滑空場とする包括的かつ継続的な試験飛行の許可を得たうえ、航空機であるウルトラライトプレーン(以下「超軽量動力機」という。)の操縦に必要な知識や技術を授与することを目的とした「フライングクラブ雄飛」という名称のクラブ(以下「本件クラブ」という。)を主宰し、一般から入会者を募ったうえ、入会者に対し、自らその知識や技術を習得させるための訓練等を行っていたものである。

原告は、昭和六三年七月九日、本件クラブに入会し、被告の指導のもとに、超軽量動力機の飛行のための訓練を受けていたものである。

2  (事故の発生)

原告は、次の事故(以下「本件事故」という。)により、後記の傷害を負った。

(一) 日時 昭和六三年七月三一日午後五時ころ

(二) 場所 本件滑空場

(三) 操縦機 ウルトラライトプレーン(超軽量動力機)、菱和式つばさW1―1型機(機体識別番号・W1―1―050、発動機・一気筒空冷二サイクルガソリン機関二四二cc、以下「本件操縦機」という。)

(四) 態様

原告が本件操縦機に乗り、ジャンプ訓練中、本件操縦機が急に上昇したので、原告はスロットルを絞ったところ、失速状態となり、スロットルを強めたが間に合わず、五ないし一〇メートルの高度より、機首から墜落した。

3  (傷害)

(一) 障害の部位、程度

原告は、本件事故により、第一腰椎粉砕骨折、腰髄損傷の傷害を受け、その治療のため、昭和六三年七月三一日から同年一〇月二九日までの九一日間、筑波メディカルセンター病院において入院治療を、平成二年一一月一九日から同月三〇日までの一二日間、同病院において脊椎固定用具抜去手術のための入院治療を受け、昭和六三年一〇月三一日から平成二年一一月一八日までの間、さらに同年一二月一日から現在までそれぞれ総泉病院において通院治療を受けている。

(二) 後遺症

右障害の症状は、遅くとも平成元年六月ころ固定したところ、その後遺症として、右傷害による排尿・排便障害(ぼうこう・直腸障害)及び歩行運動障害が残存し、そのうち、排尿・排便障害は、胸腹部臓器に障害を残すものとして、自賠責保険の後遺障害等級表第一一級に、右の歩行運動障害は、局部に頑固な運動障害を残すものとして、同表第一二級に各該当するから、併せて同表第一〇級に相当する。右の歩行運動障害の後遺症は、徐々に改善する見込みがあるものの、少なくとも症状固定後一〇年間は存続し、以後は、同表第一一級相当の後遺症が終生残存すると見込まれる。

4  (責任)

(一) 被告は、本件滑空場を提供し超軽量動力機を利用させ、本件クラブの入会者に対し、その操縦技術習得のための訓練の指導等を行っていたものであって、右の超軽量動力機の操縦は、相当高度の危険を伴うものであるから、被告は、右入会者の生命、身体の安全に十分配慮すべき高度の注意義務があるというべきである。

(二) ところが、原告は、本件クラブに入会してから事故の直前まで、実地として、四日間の地上訓練、すなわち、高速で地上滑走するタキシング訓練及び走行中に機首を上向する操作をするノーズアップ訓練と、高度三メートル以下でわずかに空中に浮き上がる程度のジャンプ飛行訓練を、また、学科として、一日間の講義及びビデオによる学習の講習を受けたに過ぎない。

しかも、原告は、試験飛行許可基準通達による第一段階の試験飛行許可(ジャンプ飛行の許可)も得ていなかったのである。

このような者に対する試験飛行のための訓練は、第一に、飛行しない機器を使用して、タキシング訓練あるいはノーズアップ訓練のみに限定して行うべきであり、第二に、仮に、飛行可能な機器を使用して、飛行を伴う訓練を実施するのであれば、右機器をもって十分な地上滑走訓練を実施して、当該機器の操作とその機器の性向を十分に習熟させ、かつ、飛行に伴う危険を予防ないし回避するに十分な注意を与えたのちこれを実施すべき注意義務があった。

しかるに、被告は、右の注意義務を怠り、原告に対し、これまで原告が全く操作したことがなく、かつ、これまでに訓練に使用した機器とは異なり、前部の重量が軽く、容易に上昇しやすい性向をもつ本件操縦機の使用を指示した。しかも、被告は、本件操縦機による事前の地上走行訓練を十分行うことなく、かつ、危険の予防や回避に必要な注意を与えることもなく、ジャンプ飛行訓練を行うよう指示した。そのため、原告は、右ジャンプ飛行中、スロットルを強めたところ、予想に反し、本件操縦機が突然五ないし一〇メートルの高度にまで舞い上がったので、慌ててこれを緩めた結果、本件操縦機は失速し、逆にスロットルを強めたが、間に合わず本件操縦機は墜落し、本件事故に至ったものである。

なお、被告は、また、原告の飛行状態を注視していなかったため、原告が飛行中に異常事態が発生したのに、これに対処すべき何らの指示も原告に行わなかった。

5  (損害)

原告は、本件事故により、少なくとも(将来の治療関係費を除く。)、次のとおり合計金二三六九万一六〇七円の損害を被った。

(一) 入院雑費 金一二万三六〇〇円

一日当たり金一二〇〇円で入院期間一〇三日分。

(二) 医療品費用 金一二万〇一二〇円

第一回の退院の翌日である昭和六三年一〇月三一日から平成二年一〇月三〇日まで、及び第二回目の退院の翌日である平成二年一二月一日から平成三年一月三一日までの合計二六か月間、一か月当たり金四六二〇円の割合による排尿・排便用の滅菌手袋(金二〇〇〇円)、カテーテル(金五〇〇円)、ゼリー(金五〇〇円)、携帯用殺菌袋(金一六二〇円)の購入代金。

(三) 休業損害 金四九万五三四四円

原告は、本件事故当日、株式会社コバヤシに勤務し、賞与を除外して、一か月金二二万五八三六円(うち基本給は金一七万円)の給与を得ていたところ、事故の翌日である昭和六三年八月一日から同年一一月三〇日までの四か月間稼働することができず、その間、右給与のうち基本給の六割の休業補償金を受けたにすぎず、合計金四九万五三四四円の休業損害を受けた。

(22万5836円−17万円×0.6)×4=49万5344円

(四) 逸失利益 金一七〇三万八七九三円

原告の後遺症は、前記のとおり、自賠責保険の後遺障害等級表第一〇級相当(労働能力喪失率二七パーセント)であり、そのうち歩行運動障害の後遺症については徐々に改善する見込みがあるが、右状態は平成元年六月から一〇年間は存続し、以後は同表第一一級相当(同喪失率二〇パーセント)の後遺症が終生残存すると見込まれる。

原告は、症状固定時期の三一才から、少なくとも満六七才までの三六年間は稼働可能であり、その間、男子労働者の平均給与額である年間金四五五万一〇〇〇円(賃金センサス昭和六三年第一巻第一表男子労働者学歴計全年令)の収入を得ることができるはずであるところ、右後遺症により次のとおり金一七五二万〇七九九円の得べかりし利益を喪失し、そのうち金一七〇三万八七九三円を請求する。

① 455万1000円×0.27×7.7217(一〇年間のライプニッツ係数)=948万8193円

② 455万1000円×0.20×(16.5468−7.7217)(一一年後から三六年後までのライプニッツ係数)=803万2606円

(五) 慰謝料 金五二万七七七七円

イ 入通院慰謝料 金一八〇万円

入院期間が昭和六三年七月三一日から同年一〇月二九日までの三か月間、及び通院期間が同月三一日から症状固定前の平成元年五月三〇日までの七か月間。

ロ 後遺症慰謝料 金三四八万七七七七円

四三四万円(一〇級の後遺症慰謝料)×一〇/三六+三一六万円(一一級の後遺症慰謝料)×二六/三六=三四八万七七七七円

(六) 弁護士費用 金一〇〇万円

原告は、本件訴訟追行を弁護士に委任し、本件事故と相当因果関係ある弁護士費用は金一〇〇万円を下回ることはない。

6  よって、原告は被告に対し不法行為に基づく損害賠償金二三六九万一六〇七円及びこれに対する不法行為日である昭和六三年七月三一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1は認める。

2  同2の(一)ないし(三)は認め、(四)は否認する。

3  同3は知らない。

4  同4の(一)のうち、被告が本件滑空場を提供し超軽量動力機を利用させ、本件クラブの入会者に対し、その操縦技術習得のための訓練の指導等を行っていたものであることは認めるが、その余は否認する。(二)は全部否認する。

被告は、「フライングクラブ雄飛」の会員に対して、飛行場を提供し、超軽量動力機を利用させ、会員が自ら大空を翔くことを助言、指導しているが、その操縦技術は操縦者個人が自らの責任で習得することになっており、被告に右技術を習得させる法的義務はない。

会員は、超軽量動力機の操縦につき、その危険性について十分承知のうえで、大空に飛び立つもので、被告は、万一事故が発生しても一切の責任を主張しない旨の書面も提供している。

原告は、本件事故に至るまで、被告の指示に従わないことが再三あり、本件事故も、被告の指示を無視して勝手にジャンプ飛行を試みるなど、無謀な操縦に原因があり、被告に本件事故の責任はない。

5  同5は知らない。

三  過失相殺の主張

仮に、被告に責任があるとしても、前記のとおり、原告は、超軽量動力機の操縦につき、その危険性を十分承知のうえで本件クラブに入会したものであり、被告が助言、指導することがあるものの、その技術習得は原告自らの責任において行うものである。また、原告は、本件事故に至るまで、被告の指示に従わないことが再三あり、本件事故も、被告の指示を無視して勝手にジャンプ飛行を試みるなど、無謀な操縦に原因があり、本件事故発生につき、原告にも重大な過失があり、過失相殺を主張する。

四  右主張に対する認否

否認ないし争う。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一請求の原因1(当事者)の事実は当事者間に争いがない。

同2(事故の発生)のうち、(一)ないし(三)の事実も当事者間に争いがない。

二同3(傷害)について

原告本人尋問の結果及び〈書証番号略〉並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、本件事故により、第一腰椎粉砕骨折、腰髄損傷の傷害を受け、その治療のため、昭和六三年七月三一日から同年一〇月二九日までの九一日間、筑波メディカルセンター病院において入院治療を、平成二年一一月一九日から同月三〇日までの一二日間、同病院において脊椎固定用具抜去手術のための入院治療を受け、昭和六三年一〇月三一日から平成二年一一月一八日までの間、さらに同年一二月一日から現在までそれぞれ総泉病院において通院治療を受けたこと、右障害は、遅くとも平成元年六月ころ症状固定したところ、その後遺症として、右傷害による排尿・排便障害(ぼうこう・直腸障害)及び歩行運動障害が残存し、そのうち、排尿・排便障害は、ときどきぼうこうの洗浄や検査、導尿や摘便を必要とする悪質なものであって、自賠責保険の後遺障害等級表第一一級の胸腹部臓器に障害を残すものに該当し、右の歩行運動障害は、階段の上り下りは可能であるものの、走ること、つま先立ちなど強く筋肉を動かすことは不可能であって、局部に頑固な運動障害を残すものとして、同表第一二級に該当し、併せて同表第一〇級に相当すること、そして、右の歩行運動障害の後遺症は、徐々に改善する見込みがあるものの、少なくとも症状固定後一〇年間は存続し、以後は、同表第一一級相当の後遺症が残存すると見込まれることが認められる。

三本件事故の態様及び責任原因について

〈書証番号略〉、原告本人尋問の結果、被告本人尋問の結果(一部信用しない部分を除く。)によれば、本件事故に至る経過及び事故の態様について、次の事実を認めることができる。

(一)  原告は、昭和六三年七月九日、本件クラブに入会した。当日の午前中、被告の操縦する超軽量動力機(二人乗り)に乗せてもらい、場内を飛行した。そして、原告は本件クラブに入会することを決め、早速、同日午後、超軽量動力機に乗りタキシング訓練等を行った。

(二)  次いで、同月一〇日午前、原告は、タキシング訓練及びノーズアップ訓練を行った。さらに同日午後、新しい機体で、タキシング及びノーズアップ訓練を行ったのち、ジャンプ訓練飛行の練習に入った。

その日の終わりころには、原告は少しジャンプ飛行ができるようになった。ところが、原告は、被告の指示を無視して高く飛び過ぎ、スロットルの調整ができずに失速し、機体をハードランディングさせプロペラ等を壊す事故を起こした。

(三)  同月一七日、講師による講義及びビデオによる学習の学科講習があった。

同月二三日午前中、原告はノーズアップ訓練等を行ったが、当日風が強く十分な練習はできず、被告は、二人乗りの機体に原告を乗せ、高さや風に対処する訓練を行い、その際、原告は被告からむやみに操縦かん等を動かすことをしないように指導を受けた。

同日午後、原告はジャンプ飛行訓練を行った。その際、地上から1.5メートルの高さで相当の距離を飛行することができた。

(四)  事故当日である同月三一日、原告は、午前中ジャンプ飛行訓練を行い、前より進歩し、周囲の景色を見る余裕もでてきた。

同日午後、被告から練習機を変えるように指示され、原告は、本件操縦機に乗ることとなり、被告の指示のもとタキシング訓練一回、ノーズアップ訓練一回を行ったのち、ジャンプ飛行訓練を始めた。原告は、本件操縦機をスタートさせ、スロットルを強めて離陸した際、従来の機体と違い、急に本件操縦機が上昇したため、原告は慌ててスロットルを絞ったため、今度は失速状態となり、スロットルを強めたが及ばず、五メートル前後の高さから、機首をやや上げ尻餅をつくような状態で墜落した。

(五)  本件滑空場で使用されている超軽量動力機は、全長が5.5メートル前後、全幅8.5メートル前後、アルミニウム合金の骨格に羽布を付けた羽根、機首のプロペラ及びこれを動かす二サイクルガソリン機関を有するものであって、操縦かんとスロットルを操作して飛行する。機種によって、高度計、速度計が付いている。

したがって、本件の超軽量動力機は、その構造上、非常に簡単なものであって、その飛行にあたっては、操縦者の慣れや勘に頼る部分が多く、その操縦自体、相当危険を伴うものであることが認められる。

(六)  被告は、本件滑空場を提供し超軽量動力機を利用させ、本件クラブの入会者に対し、自らその操縦技術習得のための訓練の指導等を行っていたものである(右事実は争いがない。)。

被告は、訓練にあたり、安全な機種の選定と供与、訓練内容の指示、危急の場合における指示等を行っていたものであり、その限りにおいて会員の生命、身体につき十分な安全の配慮をすべき立場にあった。

しかしながら、本件の超軽量動力機が本来相当な危険を伴うものであるうえ、一旦訓練飛行に入った場合、操縦者のヘルメットに組み込まれたトランシーバーにより被告からの指示は可能であるものの、具体的な操作等は操縦者自身に任せられていた。

(七)  原告は、本件操縦機に乗る際、被告から、従来の機種との詳しい違いの説明はなく、ただ、本件操縦機は従来のものと違ってパワーがある旨の説明を受けた。

なお、被告は、原告の飛行中、他人と話をしており、原告の飛行状態を注視していなかったため、原告に本件の異常事態が発生した際、これに対処すべき適確な指示を原告に行わなかった。

2  本件において、被告の責任原因の有無について検討するに、右事実によれば、被告は、本件滑空場を提供し超軽量動力機を利用させ、本件クラブの入会者に対し、自らその操縦技術習得のための訓練の指導等を行っていたものであるところ、被告が原告に対し新しい機種によるジャンプ飛行訓練を行わせるにあたっては、当該機種の操作とその機種の性向を十分に習熟させ、かつ、飛行に伴う危険を予防ないし回避するに十分な注意を与えたのちこれを行わせるべきであり、また、原告の飛行訓練中、その飛行状態に注視し、異常事態が発生した場合には、これに対処すべき適切な指示をすべき注意義務があったものというべきである。しかるに、被告は、右の注意義務を怠り、原告に対し、従来の機種とは異なり、前部の重量が軽く容易に上昇しやすい性向をもつ本件操縦機の使用を指示したが、当該機種の操作とその機種の性向を十分に習熟させ、かつ、飛行に伴う危険を予防ないし回避するに十分な注意を与えることなくジャンプ飛行訓練を行うよう指示し、また、原告の飛行中、他人と話をして、原告の飛行状態を注視せず、原告に異常事態が発生した際、これに対処すべき何らの指示も行わなかった過失があるものというべきである(なお、原告主張のその余の過失については、これを認めるに足りない。)。

よって、被告は原告に対し、民法七〇九条の不法行為に基づく後記損害を賠償すべき義務がある。

四損害について

1  入院雑貨 金一二万三六〇〇円

原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、前記入院期間中である一〇三日間、一日当たり金一二〇〇円の入院雑貨を支出し、合計金一二万三六〇〇円の損害を被ったことを認めることができる。

2  医療品費用 金一二万〇一二〇円

原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は排便排尿のための器具等として、第一回の退院の翌日である昭和六三年一〇月三一日から平成二年一〇月三〇日まで、及び第二回目の退院の翌日である平成二年一二月一日から平成三年一月三一日までの合計二六か月間、一か月当たり、金二〇〇〇円の排尿・排便用の滅菌手袋、金五〇〇円のカテーテル、金五〇〇円のゼリー、金一六二〇円の携帯用殺菌袋、小計金四六二〇円を購入せざるを得ず、合計金一二万〇一二〇円の損害を被ったことを認めることができる。

3  休業損害 金四九万五三四四円

原告本人尋問の結果及び〈書証番号略〉によれば、原告は、本件事故当時、株式会社コバヤシに勤務し、賞与を除外して、一か月金二二万五八三六円(うち基本給は金一七万円)の給与を得ていたところ、本件事故により、事故の翌日である昭和六三年八月一日から同年一一月三〇日までの四か月間稼働することができず、その間、右給与のうち基本給の六割の休業補償金を受けたにすぎず、合計金四九万五三四四円の休業損害を被ったことを認めることができる。

4  逸失利益 金一七〇三万八七九三円

原告の後遺症は、前記のとおり、自賠責保険の後遺障害等級表第一〇級相当(労働能力喪失率二七パーセント)であり、そのうち歩行運動障害の後遺症については徐々に改善する見込みがあるが、右状態は平成元年六月から一〇年間は存続し、以後は同表第一一級相当(同喪失率二〇パーセント)の後遺症が終生残存すると見込まれる。

〈書証番号略〉、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、症状固定時期の三一才から、少なくとも満六七才までの三六年間は稼働可能であり、その間、男子労働者の平均給与額である年間金四五五万一〇〇〇円(賃金センサス昭和六三年第一巻第一表男子労働者学歴計全年令)の収入を得ることができるはずであるところ、右後遺症により次のとおり、合計金一七五二万〇七九九円の得べかりし利益を喪失したことを認めることができ、そのうち原告は金一七〇三万八七九三円を請求する。

①  金455万1000円×0.27×7.7217(一〇年間のライプニッツ係数)=金948万8193円

②  金455万1000円×0.20×(16.5468−7.7217)(一一年後から三六年後までのライプニッツ係数)=金803万2606円

5  慰謝料 金五二八万七七七七円

イ  入通院慰謝料 金一八〇万円

前記認定の事実及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故による障害のため、入院期間が合計一〇三日間、及び通院期間が昭和六三年一〇月三一日から症状固定前の平成元年五月三〇日までの七か月間であり、右苦痛を慰謝するための慰謝料は金一八〇万円をもって相当と認める。

ロ  後遺症慰謝料 金三四八万七七七七円

本件において、一〇級の後遺症慰謝料として、金四三四万円の三六分の一〇である金一二〇万五五五五円、一一級の後遺症慰謝料として金三一六万円の三六分の二六である金二二八万二二二二円、合計金三四八万七七七七円が相当である。

以上の損害額の合計は金二三〇六万五六三四円となる。

五過失相殺について

〈書証番号略〉、原告及び被告本人尋問の結果、前記認定の事実並びに弁論の全趣旨を総合すれば、本件の超軽量動力機は本来的に飛行を行うには構造上簡単で相当危険を伴うものであるところ、原告はこれを承知のうえで入会し訓練を受けたものであること、また、本件訓練を受ける前あるいは訓練の際、被告から超軽量動力機の一応の操縦方法、危険回避の方法等の指導を受けていること、また、一旦飛行訓練等に入った場合、ヘルメットに内蔵されたスピーカーによる被告の指示はあるものの、具体的な場面における操作方法等は操縦者自身に任せられていたこと、原告は、本件事故前の七月一〇日にも、同様にスロットルの調整ができず、失速事故を起こしていること、原告は本件操縦機に乗る際、被告から、本件操縦機について詳しい説明はなかったものの、本件操縦機が従来のものと違ってパワーがある旨聞かされていること、また原告は、本件事故発生前に本件操縦機による一回ずつのタキシング訓練及びノーズアップ訓練を行い、本件操縦機の性向について知る機会があったこと、結局、本件事故原因の相当部分は原告の操縦未熟にあると認められる。

よって、本件事故発生につき、原告にも過失がありその割合は七割をもって相当と認める。

そこで、本件において、右過失相殺をすると、原告の本件損害は金六九一万九六九〇円となる。

六弁護士費用

原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件訴訟追行を弁護士に委任し、右弁護士費用のうち本件事故と相当因果関係ある費用は、右認容額の一割である金七〇万円をもって相当と認める。

以上、本件の損害額は合計金七六一万九六九〇円となる。

七結び

よって、原告の本訴請求は、原告が被告に対し不法行為に基づく損害賠償金として合計金七六一万九六九〇円及びこれに対する不法行為日である昭和六三年七月三一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官永田誠一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例